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:注意:
・今作は角川書店より出版された「ニトロプラス・コンプリート」に収録された「企画書 PROJECT_D2」の二次創作です。
 「PROJECT_D2」を読んでないと理解できない部分が七割以上存在しているので、出来るなら「PROJECT_D2」を読んでからこの作品をお楽しみいただけたら幸いです。
・そして作者の脳内補完という名の妄想が著しく顕現してしまった名状しがたい物語となっております。目に余る妄想、独自設定が含まれますので、苦手な方はスルー推奨。




 『PROJECT_D2_NEXT…?』


◆零章『未来/或いは過去/若しくは別時間軸にて』


 あらゆる邪神が、その圧倒的な光輝と熱量を前に昇滅した。
 クトゥルーも。ハスターも。ツァトゥグァも。クトゥグアも。イタクァも。シュド=メル、ガタノトーア、アブホースにウボ=サスラも。
 ナイアルラトホテップの全化身も。ヨグ=ソトース、シュブ=ニグラスでさえも。
 地球を発生源に、太陽系を巻き込んだ。それに留まることなく、銀河系が消滅し、別銀河においてもその破滅の波濤は及びつつあった。
 やがて光の速さで幾億の歳月をかけても決して至る事のない宇宙(そら)の最果てにまで、その絶対熱量は侵食した。
 それに巻き込まれた全ての生命、物質、幽体、時間軸でさえも一切の例外なく消えてなくなった。――ただ一つ、その熱量を発現した存在を除いては。

 吼える。勝利の歓喜に震える。勝利の凱歌を謳う。
 邪神は消えうせた。一切の例外なく。完膚無く。文字通り、全てを滅ぼしつくした。狂ってしまった世界の矯正(リセット)は此処に完了する。
 完全勝利。機神――“魔を断つ剣(デモンベイン)”と称されたその巨体は、其の名に刻まれた使命を果たした。これほどの喜びは無い。
 あらゆる魔、あらゆる外道、あらゆる理不尽を滅ぼした。全天、全銀河を、邪神によって狂わされた世界を無に還した。渇く事無く、飢える事無く。
 全天昇華呪法ビッグバン・インパクトを前に、全ての謀略は灰燼となる。


『やった……やったんだ! 邪悪は、全て滅ぼした!!』


 機神の中より聴こえる『彼』の声に呼応するかのように、虚無となった宇宙の中心で“魔を断つ剣”は吼えた。
 喜びに満ちた。使命は成った。あらゆる理不尽が、消えてなくなった。

 だが――今や彼の背後に、守るべきものは既に無く。

 嗚呼、いつか見たあの蒼き星。あの光に抱かれて、“自分が守られ続けていた”ことを悟ったあの過去は何処か。
 もはや記憶は朽ち果て、大切だったモノさえも忘却しながらも――人機は吼える。
 その機神咆吼(メタリック・ウォークライ)は、慟哭にも似て。
 
 ――時は満ちる。機神が放った無限熱量の波濤は、遂に術者へ還る。
 絶対応報。刃の報いは己に還る。世界の全てを奪うもの、己の全ても無に還る。
 “魔を断つ剣”の指先が、足元が、まるで侵食するかのように融解していく。熱量だけではない。
 “字祷子”粒子によって構成されたその魔の熱量は喩え神であろうとも灼き滅ぼし尽くす。例外は無い。それが術者自身であっても、だ。
 
 だが、『彼』はそれに違和感を感じた。
 歓喜と虚無にまみれた雄叫びの中で、ただ一つだけ残る違和感――“字祷子”。


『―――真、逆』


 思い返す。
 先の放った究極必滅奥義――全天昇華呪法は、果たして本当に邪神“総て”を滅ぼしつくしたのだろうか。
 ――否! かの無限熱量の発現を逃れえた邪神は、唯一存在する!
 其れは沸騰する混沌の核。総ての邪悪の父性。全知無能。白痴。
 嗚呼、彼の廻りに舞う者どもが奏でる冒涜的なフルートの音色が聞こえてくるかのよう。
 
 其の名は。


『………アザトース』


“――然り!”

 滅ぼしつくした筈の、邪神の声が、まるで嘲笑するかのように谺(こだま)する。
 ……嗚呼、そうだったな。アンタはそういうヤツだ。そういう存在だった。
 己の信仰するそれさえも嘲笑う邪神の声を聞いた瞬間、知覚する。認識する。ならば、やることはただ一つ。


『まだ、やるべきことが残っている』


 機神の末端より侵食する熱量の術式を“強制破壊”。
 “ド・マリニーの時計”による“上位次元”時間逆行……滅ぼされた時間軸よりも上の次元に位置する時間軸の操作により、瞬く間に“魔を断つ剣”の巨躯は再生される。
 機動呪法“シャンタク”を展開――空間跳躍に移行。銀鍵守護神機関に内蔵された“無限の心臓”を起動させる。

 虚無の世界――即ち、“泡沫”。此処は既に、彼の存在の夢の中。否、どの世界、どの空間、遍く総てが、“ヤツ”の夢の中。
 ――“滅ぼさなければならない”。
 あらゆる魔、あらゆる邪悪を滅ぼす“使命”によって駆動する『彼』は思い立つ。

 
『――征こう、デモンベイン。滅ぼす為に』


 飛翔。虚無となった夢の狭間から飛び立つ。次の夢/次の物語/次の神話へ。
 ――数瞬、『彼女』の泣き顔が脳裏を掠める。
 だが、躊躇わない。『彼』は、もはや“守るべきもの”をなくしてしまった。忘却してしまった。
 なれど『彼』の内に刻まれた其の銘――“魔を断つ剣と成る”というソレが、未だ彼を突き動かす。
 後ろ髪を引かれる想いを振り切って……機神は飛翔する。

 其の後ろ姿は、さながら夜闇に飛び立つ黒鳥(クロウ)にも似て。 
 


 ◆一章『クライ・オブ・ダークネス』


 
 まどろみの淵にて顕現する。確かな想いと憎悪を篭めて、顕れ出でる。
 其れは破滅の権化であり、闇に堕ちた英雄の成れの果て。無限螺旋において、異なる解答/解放を“してしまった”『彼』の末路。
 ――もしくは、そんな絶望の中に漂い続けた『彼』が辿る一つの道だったのかもしれない。だが、今となってはその道筋を歩んだ過去は思い出せない。
 あらゆる怨嗟、あらゆる虚無、あらゆる絶望が『彼』の身に降りかかり、終ぞ不屈の剣は闇に堕つ。
 神に敗北し、運命に敗北し、永久の仇敵に敗北し、その手に持ちえた全ての“守るべき者”を失ってしまった『彼』。
 全ての事象に敗北を規した『彼』は、そんな虚構の闇の淵にて玄(くら)く爛れて朽ち果てる運命(ルート)の中にいた。
 だが、運命とは斯くも残酷哉。運命は、全てを失った『彼』に選択肢を与えてしまった。
 邪神の謀略によって、無限に廻る螺旋に刻まれ続けた『彼』の存在意義――“魔を滅ぼす意思”が、運命を捩じ曲げてしまった。
 だがそれもまた、運命の域を出ない。絶対運命の中にて系統化された道の一つだった。
 語られることなき物語。如何なる物語と関わりを持つことなく。存在しない物語(セカイ)の狭間で――絶望に灼ける刃は、闇に堕ちながらも再誕した。

 絶望に蹂躙されながらも。ただただ其処に在る。顕在する。輝ける。
 魔導の力を四肢に、全霊に宿して。あらゆる万物が発狂してしまった世界の中心で吼える。


 憎悪の空より来たりて
 正しき怒りを胸に
 我が手は魔を断つ剣を執る

 
 嗚呼、彼の聖句は歪まれた。なれど根に息吹くその思いに一切の不変は無く。
 其れはただただ、己に刻まれた“意義”“使命”によって駆動する“機関”。
 そして巨大な鋼は天蓋より、大質量を纏って。闇の焔に鍛えられし“刃”は顕現する。

 その、名は。



 汝、破滅の刃―――“ デ モ ン ベ イ ン ! ”



 ◆◆◆ 



 大暗黒時代。世界は――邪神に屈した。
 邪神クトゥルーの復活を皮切りに、各国に隠れ潜んでいた邪神眷族群(CCD)が地球の総てを蹂躙し略奪し陵辱しつくした。
 何もかもが終わりを告げ、何もかもが始まりを告げる。即ちそれは正気の終焉であり、狂気の創世である。
 数億の年月を掛けて生命を成したこの星は、突如復活を遂げた異界の化身によって、一瞬で崩壊した。
 人間をはじめ、動物、植物、果ては無機物までもが狂ってしまった。
 ――世界発狂。あらゆる常識と理念は覆され、邪悪の理法(ロゴス)が、混沌による平等が敷かれた。
 発狂死した者は数知れない。邪神の贄として喰われた者も数知れない。だが、死したものはまだ幸福であった。
 辛うじて生き残った者達は、自我を奪われ邪神の奉仕種族として生まれ変わった。
 魂魄汚染により自らの形を保てなくなり、不定形の名状しがたき存在になった者もいた。
 異次元へ消えたものもいた。皆が皆、生きたまま死を超える恐怖を刻まれ続ける。世界は地獄へと変貌を遂げてしまったのだ。

 ただ、旧時代からその暴虐の嵐に耐え、生き残った人類も数少ないが存在している。
 ――『彼』も、その一人だった。魔導の力を駆使し、邪悪に抗う存在だった。
 眠りから目覚めた『彼』には、もはや守るべきもの、愛するものの総てが無い。忘却してしまった。
 だが『彼』の中に燻る一つの感情だけが激しく、苛烈に燃え盛っている――憎悪。邪悪に、理不尽に対する無限の憎悪だけが、『彼』の存在を保っていた。


 荒野となった大地に、『彼』は立った。
 かつて“アーカムシティ”と呼ばれた場所。
 先程まで邪神によって支配された発狂都市だった場所は、『彼』の“愛機”が放った一撃により跡形もなく消滅した。
 否、アーカムシティだけではない。アーカムシティを中心に、インスマウス、ダンウィッチを含んだ半径50マイルの領域が地球上より消し飛んだ。
 圧倒的暴力。邪悪を滅ぼす為に手にした、神をも引き裂く力。人の手に余る術。
 黒衣を纏った『彼』は、その大地をガランドウな瞳で見渡した。
 かつて、光と闇が混ざりながらも均衡を保っていた大都市。闇の淵でありながら、光射す世界でもあった場所。
 大切な人たちが居た。自分を癒してくれるぬくもりが在った。……愛するものが、隣にいた。
 だが今やそれらは居ない。
 奪われたのだ。あの邪悪の化身達によって……総てを。

「キヒヒ……ヒヒヒヒ……ヒャハハハハハハハ!」

 狂笑が込み上げた。自らの力によって消し飛ばした大地を見て、陶酔にも似た感情を吐き出していく。
 この力だ。この神をも引き裂く力。これさえあれば――総ての魔を滅ぼすことが出来る。
 絶対的な確信。妄信にも似たそれに、『彼』は酔い痴れる。
 『彼』はその暴力を使うことを躊躇わない。狂ってしまった世界の真ん中で、決意する。
 そう、『彼』は決して、己の総てを奪い尽くした邪悪の存在を赦さない。一片たりとも、容赦無く、認めやしない。

 滅ぼすのだ。
 邪神を。その奉仕種族を。遍く旧支配者を。遍く外なる神々を。
 滅ぼして、滅ぼして、滅ぼして―――狩り尽くしてやる。
 未来永劫、過去永劫。魔を討つ“機関”となってまで、『彼』は戦い続けるのだ。


 だからこそ、『彼』はいつの間にか右手に顕現させた“バルザイの偃月刀”を力の限り背後に向かって振り落とした。
 だが偃月刀は空を斬る。何の手応えも無い。――しかし『彼』の霊的感覚は未だ警鐘を鳴らしている。
 突如、頭上から渇いた音――拍手が鳴った。上空を見やる。“懐かしい”貌(かお)を見た。

「アンタか」

 殺意を宿す視線でソレを射抜く。
 識っている貌だった。忘れようにも、忘れられぬ貌だった。

「―――――ナイアルラトホテップ」

「いやはやいやはや。憶えてくれてくれたんだねェ、大魔術師殿。さっきの力、魅せてもらったよ。何とも素晴らしい、清々しいくらいの威力! 流石の僕もアレにはたまげたものだ」

 いつもの様に、人を嘲るような仕草。気に障る声。妖艶な肢体は未だ怖気が奔るよう。
 ――無貌の神(ナイアルラトホテップ)。思えば、この存在こそ『彼』をこの有り様に叩き落した元凶、だったのかもしれない。

「嘲笑いに来たのかい? カミサマってのも案外暇なモンだな」

「なァに、当初の目的がこんな形で成るだなんて思いもしなかっただけさ。今では商売上がったりといったところだよ」

 癪に障る。『彼』は再び偃月刀を構え直した。今度こそ、確実に殺すという決意を胸に。
 否、決意などする必要など無い。既にし終えているモノを繰り返すなど手間だ。故に構え直した瞬間、偃月刀が全霊を込めて投擲された。
 超速回転。傍から見ればブーメランの如きそれは上空に浮かぶ邪神に向かって疾駆する。
 ――が、邪神ナイアルラトホテップは哂いながら……余裕綽々といった風に、その手に持った時計の針を“カチリと止めた”。
 瞬間、回転するバルザイの偃月刀が静止――否、停止する。なんの予兆も反動もなく。減速すらせず、まるで其処だけ世界から切り取られたかのような異常な光景。
 ……詳細を言えば、偃月刀自体が静止したワケではない。偃月刀の周囲に流れる時間軸が完全に停止してしまっているのだ。
 
「“ド・マリニーの時計”……厭らしい術(モン)を使いやがる」

 心底忌々しく、『彼』は呟いた。
 『彼』が見やる邪神の背後、彼女の身の丈の三倍はあるだろうか、『彼』が持ちうる“ド・マリニーの時計”とは比肩できない大きさの掛け時計が偏在していた。
 ありとあらゆる方向――過去、現在、未来でさえも行き来、操作を可能とする時空装置(タイムマシン)の記述。
 ――然り、あれこそが“本当のド・マリニーの時計”なのだろう。魔導書に書かれた記述上のモノではなく、紛れも無い本物だ。
 だが邪神は煮える殺意を前にしてもその笑みを崩すことは無い。それもこれも“予定調和”だと言わんばかりに。
 いや、真実“予定調和”なのだろう。舞台監督(ストーリーテラー)である奴はそういった陳腐なモノを常に望んでいるのだから。

「全く、酷いじゃないか。あらゆる意味で“育ての親”みたいな存在(ぼく)に向かって、そんなものを突き立てるなんて」

「戯けたこと言ってんじゃねえぞ、邪神。もしアンタがその通りに俺を育てたってんなら、アンタ自身に牙を剥く事なんて道理ってヤツだ」

 無詠唱で、『彼』は再びその手にバルザイの偃月刀を鍛造する。
 憎悪と怒りで精製された魔刃を携え、殺意を篭めた視線で見やる。今度こそ滅ぼしてやる、と。
 ―――だが邪神は気に障ること無く、哂いながら『彼』に交渉を持ちかけてきた。


「まぁ待ってくれよ、大魔術師殿。僕が此処に来たのはね、ただ君に殺されに来たワケじゃあない。――ちょっとした“ビジネス”ってヤツだ」

 妙な話だった。『彼』は一瞬呆けた表情になったが、すぐにその口端がつりあがった。
 嘲笑と、怒りが混ざり、実に不愉快そうに歪んだ表情で罵倒じみた言葉を放つ。

「……“ビジネス”? テメェが? この俺に? ―――クハハっ、ホントに脳が湧いてるとしか思えねェ話だ」

「そんな戯言じみた誘惑を招いてこその僕さ。フフ――そんなこと、昔から識っているだろう?」

 だが、やはりかの邪神は意を介さない。『彼』のその怒りと嘲笑さえも、嘲り戯ける。
 まるでその返答が予想通りだと言わんばかりに。総て仕組んだ会話だと言わんばかりに。
 故に邪神は、“台本通り”に己の台詞を吐く。



「なァになに。ちょっとした“契約”だよ、大魔術師――『鉤爪/黒鳥』君。これは、君にとっても悪い話では無い筈だよ―――必ず、ね」



 其れは、まるで甘く苦い、猛毒を催す悪魔の囁きに似ていた。 




 ◆二章『パルプ・フィクション・フィルム』


 時は別の彼方。
 大混乱時代。巨大な時計塔が雄雄しく聳える街で、その戦いは繰り広げられていた。 


「だぁーもう! 糞、糞糞糞糞―――糞がァッッッ!!!」


 魔都堰夢(アーカムシティ)のビル群の狭間より聴こえた青年の声と共に低い地鳴りが起こった瞬間、巨大ビル群の一角がまるで積み木を崩すかの如く容易に倒壊した。
 膨大な白煙粉塵を巻き上げながら、鋼が軋む音が痛々しげに鳴り響く。舞い上がる白煙の中に見える、この周囲の巨大建築物と比べてみても遜色ないほど大きな質量の影――それの歯車(ギア)がようやく噛み合い、爆音を轟かせて起き上がる。
 白煙からゆっくりと出てくるその巨大な質量――上半身の容貌はとてつもなく無骨な形状(フォルム)、下半身は重圧感溢れる無限軌道(キャタピラ)。
 その巨大ロボットの名は“ゴリアテ”。かつて覇道財閥現総帥“覇道瑠璃”の母――発明王の名で世に轟いた女性“オーガスタ・エイダ・ダーレス”が開発した機体。
 かつて蒸気機関駆動のマシーンであったこの巨体は、今このアーカムを中心に世界中で繰り広げられている大混乱――大嵐、または魔導戦争(グレート・ウォー)と呼ばれる時代を駆け抜けるために世代交代を重ね続けた。
 今や『万能自走魔導機関』などという大層な名を与えられる程に進化した機体が、その堅牢な装甲の随所を傷つけられ、抉られていた。
 交戦を行なう事自体に影響はさして無いとはいえ、何万tにも及ぶその重量を吹き飛ばされては、乗り手も驚きを隠せれない。

 ――否、ゴリアテの乗り手である青年……“ジョージ”は、それに驚いたワケではない。

 目の前を見やる。ジョージ/ゴリアテを吹き飛ばした張本人が悠然と腕を組んで立ち塞がっていた。
 ――“アルファオメガ”。『旧神の使徒』を自称するテロリスト集団“八月党”が擁する光の巨人。
 邪法邪念邪悪に貪られ、穢れてしまったアーカムシティを正義の光を以って浄化すべく顕現した超人(ウルトラ・ヒューマノイド)だ。


 『DYU-WAR-THI!!!』


 アルファオメガは憎悪を篭めて異形の雄叫びをあげる。
 魔と怪異、旧支配者の寵愛を受けている邪都、その恩恵を受ける愚者と認識し、巨人は両腕を交差させゴリアテに対し怪光線を放った――字祷子(アザトース)濃度からして威嚇射撃といったところか。
 ゴリアテは無限軌道を巧みに操りながら怪光線を回避しつつ接近、魔力を付加した右腕で光の巨人――アルファオメガに対して襲撃を行なう。

「こ……の野郎!! 糞、糞糞! 未熟だ、未熟すぎる! ゴリアテ(こいつ)を引っ張り出した挙句にこのザマじゃあ、後でウィンフィールド師匠にどやされるっつーの、コンチクショーが!!」

 自身から出た錆に怒りを露わにしながら、満身の力を込めてゴリアテの右腕はアルファオメガの身体に衝突。
 魔力が篭められた大質量の打撃は、光の巨人さえも容易に吹き飛ばす。圧倒的猛威だった。だが、倒すには至らない。
 ――トドメをさそう。

「スペル・デッキ『ネクロノミコン』――再展開(ドロー)!!」

 そう決意したジョージは、何十枚の束(デッキ)よりカードを引き抜いた。
 スペル・デッキ『ネクロノミコン』。魔導書“死霊秘法(ネクロノミコン)”が写本の一つ。
 かつて覇道財閥初代総帥、覇道鋼造が創り上げた“解析機関”によって翻訳された“機械語写本”というパンチカード式の魔導書が先行されたのは周知のことだが、それ以後も数多のカタチをした写本が精製され、今のカタチへと昇華している。

「正直、この早さでコレを使うのは無粋の極みだけどさ――アリスンのトコに加勢する為に、さっさと終(しま)いにしようや!」

 左腕に魔力によって顕現(マテリアライズ)させた機械式篭手(ガントレット)の投入口(スロット)にそのカードを入力(スキャン)する。


《FINAL ATTAK CARD ――“LEMURIA IMPACT/OMISSION”》


 ガントレットより木霊する機械的音声(メタルエコー)。それに従い、ゴリアテの右腕に莫大な魔力が流れ込む。
 肩から指先まで繋がった数百もの魔術回路を介して魔法陣が一斉展開。幾重に連なる幾何学的な模様はその術式を完成する為に演算する為の構築式――ナアカル・コード。
 かつて、この地に降り立った鋼の巨神――“魔を断つ剣(デモンベイン)”が保有した第一近接昇華呪法の簡易術式(オミット・ヴァージョン)。
 


「光射す世界に、汝等闇黒、凄まう場所無し!」



 無限回転、無限連鎖、無限加速。
 原子の輪廻。摩擦。振動連鎖。熱度上昇。回転回転回転回転回転回転―――!!
 その加速に限度は無く。その加熱も際限は無し。
 ゴリアテに搭載された術式回路の限度を計算し、かの鬼械神のそれよりも簡略化、規模の縮小せざるを得なかった呪法。
 ナアカル・コードによって形成された絶対否定空間を使用する必要が無い程度に縮小されてはいるが、なれどその魔を滅ぼす熱に一切の躊躇はない。



「渇かず! 飢えず! 無に、還れェェェェェェ!!!!」


 
 即ち、その名はこの魔都堰夢にかつて轟きし、無限の熱量を叩き込む必滅奥義―――



「レムリアァァァァァ―――インパクっ!?!?」



 瞬間の出来事だった。
 術式は成立した。起動も完了し、後は術式の完了をすべく敵に叩き込むだけだった。
 だが――その熱量を受けるべき仇敵、アルファオメガはそれを一切赦さなかった。容赦しなかった。
 結論から言えば、ゴリアテの有する必滅奥義は発動せず、強制中断させられた――熱を宿す右腕が、突如として“あらざる方向より放たれた光輪”によって切断されたのだ。
 なれど、その光輪を放ったのは眼前のアルファオメガではない。

 ――ジョージは薄ら笑いを浮かべながら、その状況に驚愕していた。

「は……ハハ、冗談でしょ?」

 否、その驚愕は現実として君臨した。
 ジョージは光輪が放たれた方角――深く澱んだ空へ、顔を向ける。


「冗談、じゃねえよなぁ……でも、でもさ!」


 視線を向けた先、悠然と宙に浮くは、姿形は違えども正しくそれは眼前にいる存在と同じ光の巨人。
 胸に眩く光点(タイマー)が、まさにその名を知らしめている。
 即ち―――



「―――“兄弟”が居るなんて、聞いてないよォォーーーーー!!!?」




『―――PO-WERAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!』



 ―――別個体のアルファオメガ。後に、あれを召還した“八月党”の者が語る。その個体名を“アルファオメガ・Å(オングストローム)”。
 同類の危機を前に、新たなる光の超人がアーカムシティに生まれ堕ちた。


 ◆◆◆


 覇道邸地下基地。
 アーカムシティ都市区に突如出現した別個体のアルファオメガに関する情報が錯綜する中、作戦部長であるソーニャは現状の把握に努めていた。

「ゴリアテ、新たに顕現した敵勢力(アルファオメガ)と交戦を再開! 現在、ウィンフィールド様がゴリアテの援護の為に出撃しましたです!」

 ソーニャはこの覇道地下基地の総司令にして覇道財閥現総帥たる女性――覇道瑠璃に報告。

「そ、そ、そう――ウィンフィールドが行きましたか。彼が行ったのならゴリアテの方も大丈夫でしょう。他の地域の戦況は?」

 彼女の背後より、若干上擦った声でその報告に応える。

「アリスンちゃ―――メタトロン二号は“八月党”の保有戦力“グリュ=ヴォ五一二傑”に加え、“サンダルフォン”と交戦中! 戦力的に言えば、こっちの方が少し心許無いような気がしますです」

「魔術武装を施した兵達を向かわせなさい――メタトロン二号とサンダルフォンの戦闘の余波を極力受けないよう、あのゲテモノ集団を殲滅させて」

「了解です!」

 ――アーカムシティは今、大きな大きな嵐を前にしている。
 魔導戦争(グレート・ウォー)と呼ばれる大嵐を眼前に、怪異の街は窮地に立たされた。
 “何者”かによって引き裂かれた世界の中でも、アーカムシティは最も苛烈な戦いの地である。

 邪神クトゥルーを信仰する“クトゥルー教団”に“ダゴン秘密教団”、今現在ジョージとアリスンが交戦している組織、旧神崇拝の狂信者どもの集い“八月党”。
 魔術師ラアル・ロブディを教祖とする獣人(ライカンスロープ)によって構成された“暗黒の夜明け団”。ムーンチャイルド計画を画策する“新生暗黒聖域(ネオ・ブラックロッジ)”。
 他にも“獣の結社”、“白銀黄昏団(S∴T∴)”“黄昏の夜明け団(T∴A∴)”“異端者(イノヴェルチ)”。―――それらの背後に暗躍せし“星の智慧(スターリング・ウィズダム)”。
 この魔都の支配者にして守護者たる覇道財閥が所有する最大戦力、“魔を断つ剣(デモンベイン)”がいない今この時を狙い、次々と襲撃に出る数多の敵。

 ――だが、このアーカムシティはそんな嵐には屈しない。その嵐に立ち向かい、踏破する。
 デモンベインがいない? 否、魔を断つ剣は此処に在る。“彼らの魂と共に在る”。
 邪悪を赦さず、理不尽に立ち向かう、不撓不屈の心魂こそが魔を断つ剣。――神の摂理に挑む者達の、本質である。
 
 それを持つ限り、“女王(クイーン)”覇道瑠璃はこの大嵐を恐れない。大嵐に立ち向かうことを躊躇わない。
 邪悪に屈する道は無く、恐怖に打ちのめされる事も無く。彼女の姓の通り、威風堂々と胸を張り、覇道を往くのみ――




「―――お嬢様、モノローグに浸っているところ申し訳ありませんが」

「ひゅいっ!? ま、まこ、マコトさん? いいいいきなり後ろから耳元へ声を出さないでくださいまし!」

「そんなことはどうでもいいのです。至極、どうでもいいことです」

 剣呑な(ゆるい)空気。
 覇道財閥のメイド達の中で最も上に立つメイド長、マコトが深刻な声色で瑠璃に告げる。


「覇道を往くもの、威風堂々と“胸を張って立つ”ことは大変素晴らしいことです。ですが――――――――瑠璃お嬢様?」

「な、な、ななななななんでしょう」

 明らかに動揺する瑠璃。彼女自身は何とか平静を保とうと努力をしているのだろう、彼女なりに。
 だが生憎、その姿は誰から見ても動揺しているとしか言い様も無い姿であった。まるで、生まれたての小鹿のような。


「………そのような前屈みの姿勢では、威厳の欠片もございません。どうか胸を張り、堂々とした御姿を示してください。さぁ」


 否。まるで、ではなかった。
 覇道瑠璃は今“正に”、生まれたての小鹿のような姿勢になっていた。―――その、余りに丈の短いスカートを両手で必死に押さえながら。


「『さぁ』じゃありませんわよマコトさん!? こ、ここここんな格好、三十路になって着るものじゃないでしょう!? そうでしょう常識的に考えて!!」

「ですがそれは、この場の総司令であらせられる瑠璃お嬢様の“正装”でございます。雄獅子に鬣(たてがみ)が在るように。自称紳士達が画面(ディスプレイ)前でネクタイ以外全ての衣服を剥ぐように」

「前者の理由は兎も角、後者は違うでしょう!? それは正装だなんて呼びません! た、ただのヘンタイです!! ………あ、それはアレですかマコトさん。この歳になってこんな格好をしている私に対して言っているのですか? ねぇ、そうでしょう? そうでしょう!」

「…………来なさい、メイド隊!」

「あ、無視した。華麗にシカトしやがりましたねこの駄メイド!?」

 瑠璃の質問に答える事無く、マコトは天に腕を掲げると勢いよく指を鳴らした。
 それに応じるかの様に、瑠璃の背後に数人のメイド達が突如として現れる。

「「「「はっ! 此処に」」」」

 彼女達とマコトの間に無言の命令――アイコンタクトが行なわれる。
 それに対してメイド達は一斉に頷き、瑠璃の四肢へ手を伸ばしていく……。





「え、ちょ、や、やだ! やですよそんな、こんな格好で胸を張るだなんて……あ、足掴まないで腕広がせないでェ! み、三十路になってこんな格好イヤだっていってるのに、なんでウィンフィールドも貴女方も皆が皆揃いも揃って―――――あ、あ、ア゛ーーーーーーー!!」





 またしても悲痛な悲鳴。
 「またか」と言ったかのように、その様子を徹底的に無視して自分の仕事を行なうオペレーター達。
 作戦部長は嘆くように天井を見上げながら。



「ほんと、バカしかいねぇ」(本日二回目)